
Anthraxの「I’m The Man」は、1987年のバンドの遊び方と時代の空気が、そのまま固まったような曲だ。サウンドトラック盤『Return of the Living Dead Part II』では、この曲が Def Uncensored Version 名義で収録されている。映画のクレジット資料でも、Anthraxは「I’m The Man」と「A.D.I./Horror Of It All」の二曲で記載されている。『バタリアン2』にAnthraxが一曲だけ顔を出しているのではなく、作品の音楽面で複数の足跡を残している点は、まず押さえておきたい。
この曲の成り立ちは、後追いの企画物として片づけるにはもったいない。Scott Ianは後年、「I’m The Man」を当時自分たちが聴いていたラップへのオマージュとして説明している。Beastie Boysから強い影響を受けていたこと、メインリフに Hava Nagila を使ったこと、さらに当初はBeastie Boys本人たちを参加させる案まであったことも語っている。ここにあるのは、スラッシュメタルのバンドが流行を表面だけ借りた姿ではない。1980年代半ばのニューヨーク周辺で、ラップ、ハードコア、メタルがまだ近い距離で混ざっていた時代の感触そのものだ。
歌詞の内容も、その成り立ちときれいにつながる。大げさな自己誇張、下ネタ、子どもっぽい見栄、身内いじりが続き、深刻な社会批評や内面告白には向かわない。Scott Ian自身も、この曲の歌詞はもっと愚かで、もっとくだらない方向へ寄せたかったと振り返っている。だからサビの決め文句は、不良の本気の宣言として受け取るより、Anthraxが自分たちを茶化しながら誇張して見せるためのフレーズとして読んだほうが収まりがいい。強さを見せながら、同時に自分たちを笑いの対象にもしている。そのねじれた感覚が、この曲の芯にある。
サビの軽薄さにも出どころがある。Eddie Kramerの回顧では、この曲の面白い部分が映画『Easy Money』に出るTaylor Negronのキャラクター由来だと説明されている。つまり「I’m The Man」のふざけた言い回しは、その場の思いつきだけでできているわけではない。1980年代アメリカのコメディ映画の会話感覚が、そのままバンドの曲の中へ持ち込まれている。Joey Belladonnaが、制作中に部屋へ入った時に何が起きているのか分からなかったと後年に話しているのも自然だ。この曲はAnthraxの中でも、最初からまっすぐ受け止められた曲ではなかった。
それでも「I’m The Man」は内輪ネタのままで終わらなかった。1987年末の業界誌では、Censored Radio Versionがラジオで強い反応を取っていたことが確認できる。most added と most requested の両方で上位に入り、UKのシングルチャートでも20位まで上がっている。冗談の曲だったことと、実際に届いた曲だったことは別の話だが、この曲はその両方を持っていた。笑いの曲でありながら、きちんと市場に届いた。その事実は小さくない。

『バタリアン2』との接点を考えるなら、映画そのものの性格も見ておく必要がある。AFIでは作品は Horror / Comedy として整理されている。監督Ken Wiederhornも後年、この作品は前作よりかなり goofier だったと振り返っている。前作の毒気や不穏さをそのまま押し出すより、騒がしさとコメディの比重を強めた続編だったということだ。その流れの中に、ラップとメタルを雑多なまま混ぜ、子どもっぽい自慢と下品な冗談を前面に出した「I’m The Man」が置かれている。この組み合わせにはかなり自然な一致がある。
当時のサウンドトラックの売り方にも、その位置づけが見える。1988年の業界誌では、『Return of the Living Dead Part II』の注目アーティストとしてAnthraxとZodiac Mindwarpが前面に出されている。サントラ全体は一色ではないが、少なくとも宣伝上はAnthraxが目立つ位置に置かれていた。映画に一曲だけ入った名前というより、サントラの顔のひとつとして扱われていたことになる。
ただし、ここで線は引いておいたほうがいい。公開資料の範囲では、映画制作側がなぜAnthraxの「I’m The Man」を選んだのかを直接語った決定的なテキストは、まだ確認できていない。作品のトーンと曲の性格がよく噛み合っていることは言えるが、選曲意図そのものを断定する材料は足りない。この一点を曖昧にしないことが、かえって記事全体の信頼性を上げる。

その一方で、これ以上掘り下げる入口は見えている。2018年のScream Factory盤には、Ken Wiederhornの新録インタビュー、作曲家J. Peter Robinsonの新録インタビュー、音声解説、当時のビデオ・プレス素材が収録されている。映画側の一次寄り証言がまとまって存在する場所としては、現状ここが最有力だ。さらに、press kit や pressbook の物理資料が残っている痕跡も確認できる。制作ノートや宣伝文がそこに含まれていれば、選曲や作品トーンの説明にもう一段踏み込める可能性がある。
現時点でも、「I’m The Man」はただの珍曲では終わらない。Anthraxが当時のラップに反応し、Beastie Boysの影響を受け、Hava Nagila をリフに使い、コメディ映画の言い回しをサビに持ち込み、ラジオでもチャートでも反応を取り、Def Uncensored Version 名義で『バタリアン2』のサントラに残った。そこまで並べると、この曲は1987年の悪ふざけの記録であると同時に、当時のメタル、ラップ、ホラーコメディが雑多なまま隣り合っていた時代の断面として読める。

I’m The Man (Def Uncensored Version)
Not! Not! Not!
違う!違う!違う!
Now we’re Anthrax and we take no shit
俺たちはアンスラックスだ、くだらないことは許さない
And we don’t care for writing hits
それにヒット曲を書くことには興味がない
The sound you hear is what we like
おまえが聞いている音こそが、俺たちが好きなものだ
I’ll steal your pop-tarts like I stole your…
おまえのポップタルトを盗んでやるよ、さっきおまえのを盗んだみたいに…
Socks!
靴下を!
Charlie, beat the beats, the beats you beat
チャーリー、ビートを刻め、おまえが刻むビートを
The only thing hard is the smell of my feet
それより強烈なのは俺の足の臭いだけだ
Go drain the lizard or take a…
小便でもしてこい、それか持ってけ…
Chair!
イス!
Watch the beat!
ビートを外すな!
I’m on your case, I’m in your face
おまえに食らいついて、目の前で絡んでやる
I Kick you and your father back in place
おまえと親父を元の場所へ追い返す
Step off sucker, understand
さっさとどけ、このバカ、よく聞け
Don’t you know that
知らないとは言わせないぜそれ
I’m the man! I’m the man!
俺様が一番だ!俺様が一番だ!
I’m so bad
俺はマジでワルだ
I should be in detention!
居残り喰らっててもおかしくない!
I’m the man!
俺様が一番だ!
We’ve got real def rhythms and fresh new jams
俺たちのリズムは最高だし、新曲も最高にクールだ
And if you think we got egos but we’re just hams
俺たちがエゴの強い連中に見えても、実際はただのお調子者だ
Scott plays stickball and likes to skate
スコットはスティックボールをして、スケボーするのが好きだ
Frankie’s never on time he’s always
フランクは時間を守らない、彼はいつも
Sleeping?
寝てる?
They drink the drinks, the drinks they drank
あいつらは酒をあおる、あいつらが飲むその酒を
I put my money in the bank
俺は銀行に金を預けた
They cut their crack, they offer us joints
ヤツらはコカインを小分けにし、俺たちにジョイントを勧めてくる
We don’t do drugs, do you get our…
俺たちはドラッグなんてやらないよ、言いたいことわかるだろ…
Meaning!
意味が!
Watch the beat!
ビートを外すな!
I’m on your case, I’m in your face
おまえに食らいついて、目の前で絡んでやる
Kick you and your father back in place
おまえと親父を元の場所へ追い返す
Step off sucker, understand
さっさとどけ、このバカ、よく聞け
Don’t you know
知らないとは言わせないぜ
I’m the man! I’m the man!
俺様が一番だ! 俺様が一番だ!
I’m bad! I’m so bad
俺はワルだ!俺はマジでワルだ
I should be in detention!
居残り喰らっててもおかしくない!
I’m the man!
俺様が一番だ!
For a heavy metal band, rap’s a different way
ヘヴィメタル・バンドにとって、ラップはちょっと違うやり方だ
We like to be different, not cliche
俺たちは人と違うことが好きで、ありきたりなのはごめんだ
Well They say rap and metal can never mix
まあ、ラップとメタルは決して交わらないと言われている
Well, all of them can suck our…
まあ、あいつら全員、俺たちの…
Sexual organ located in the lower abdominal area!
下腹部にある生殖器!
Danny farted the farts, the farts he farted
ダニーはオナラをした、ヤツが放ったオナラ
I pick my nose but I’m retarded
鼻をほじってるけど、俺はイカれてるんだ
Like El Duce says, “Smell my anal vapor”
エル・デュースが言うみたいに「俺の肛門の蒸気を嗅いでみろ」
And wipe my butt with your…
そして俺のケツを拭いて、おまえの…
Face!
顔面で!
Yo, watch the beat!
おい、ビートを外すな!
I’m on your case, I’m in your face
おまえに食らいついて、目の前で絡んでやる
Kick you and your father back in place
おまえと親父を元の場所へ追い返す
Step up sucker, understand
さあ覚悟しろ、よく聞け
Don’t you know
知らないとは言わせないぜ
I’m the man! I’m the man!
俺様が一番だ!俺様が一番だ!
I’m bad! I’m so bad
俺はワルだ!俺はマジでワルだ
I should be in detention!
居残り喰らっててもおかしくない!
I’m the man!
俺様が一番だ!
So, as this rap is winding down
さて、このラップもそろそろ終わりに近づいてきたけど
It’s plain to see we wear the crown
俺たちが頂点にいるのは見りゃわかる
You know Anthrax is number one
アンスラックスが一番だってことは、みんな知ってるだろ
But we don’t care, we just wanna have…
でも俺たちは気にしない、ただ楽しみたいだけ…
A festival!
お祭り!
Joey mailed the mail, the mail he mails
ジョーイは郵便物を投函した、彼がいつも投函するあの郵便物を
We are the kings and all shall hail
俺たちは王であり、万民は俺たちを称えろ
We’re like a diamond that is forever
俺たちは永遠に輝くダイヤモンドのようなもの
And we’ll remain the hardest ever
そして、俺たちはこれからも史上最もタフな存在であり続けるだろう
Not!
違う!






