
EARTH CRISISの「Biomachines」は、2000年6月20日にVictory Recordsから発表されたアルバム『Slither』に収録されている。
Victory Recordsの公式Bandcampでは全11曲中の6曲目で、演奏時間は3分34秒と記載されている。
『Slither』が発表された2000年、ボーカルのKarl Buechnerはインタビューで、EARTH CRISISが扱っている問題として動物実験と遺伝子工学を挙げている。
Karlは研究所、毛皮農場、屠殺場などで動物が受けている苦しみを知らせることを、バンドの目的の一つとして語ってきた。
この記事では、KarlとScott Crouse本人の発言、『Slither』発表当時のインタビューとファンジン、2000年までに存在していた遺伝子改変、異種移植、動物クローニング、研究動物をめぐる法制度と企業活動を整理し、最後に英詞と日本語訳を掲載する。
『Slither』で変わったのはメッセージではなく伝え方だった
『Slither』は、EARTH CRISISの作品の中でも大きな音楽的変化を示したアルバムとして知られている。
それまでの作品よりも、メロディのある歌唱、聞き取りやすいボーカル、現代的なメタルの構成を強く取り入れていた。
そのため発表当時には、バンドが従来の方向から離れ、商業的な音へ変わったという批判も起きた。
2025年に公開されたHardLoreのKarl Buechner出演回で、Karlは『Slither』について、動物の権利を扱う曲もストレートエッジを扱う曲も収録されており、変化したのはメッセージではなく、その届け方だったという趣旨を話している。
Karlが目指したことの一つは、聴き手が歌詞カードを開かなくても、声を聞いて言葉を理解できる作品にすることだった。
従来より明瞭なボーカルを用いたのは、歌詞を耳から直接伝えるためでもあった。
ギタリストのScott Crouseも、2000年に掲載されたOx Fanzineのインタビューで、『Slither』の変化は、安全で予測可能な道を進み続けることを避けるための意図的な選択だったと説明している。
2009年のExclaimのインタビューでもScottは、バンドがそれまで可能だと思っていたことを一通り行ったため、自分たちを挑戦させる別の作品を作ろうとしたと振り返っている。
『Slither』では音楽的な方法が変化した一方、動物解放を扱う歌詞も引き続き収録された。
2000年当時から動物実験と遺伝子工学が主題だった
『Slither』が発表された2000年当時、Karl Buechner本人が、EARTH CRISISの主題として動物実験と遺伝子工学を挙げている。
2000年8月10日に掲載されたThe PitchのインタビューでKarlは、EARTH CRISISが取り上げている問題として、動物実験、遺伝子工学、機械への依存、監視や管理が進む社会などを語った。
同じ取材でKarlは、自分たちの言葉を聴き手に盲目的に信じてほしいのではなく、自分で考え、良心に従って行動してほしいという趣旨を話している。
2000年11月15日に掲載されたMondoSonoroのインタビューでも、Karlは『Slither』発表後もヴィーガンとストレートエッジの立場を維持していることを明言している。
動物を解放する活動家を支持していること、大学、刑務所、政治家の前でヴィーガニズムと動物への暴力について話してきたことも説明した。
Karlはヴィーガンであることについて、罪のない動物の命を尊重する行動だと語っている。
EARTH CRISISが語った動物解放

動物への共感や菜食主義を歌ったパンク、ハードコアバンドは、EARTH CRISIS以前にも存在した。
KarlもHardLoreで、その歴史を認めている。
そのうえでKarlは、EARTH CRISISが前面に出した内容として、研究所や施設に閉じ込められた動物を救出すること、動物を苦しめる実験や設備を妨害すること、動物を虐待し、搾取し、殺す仕組みへ働きかけることを挙げている。
2015年のGhost Cultのインタビューでも、Karlは研究施設で動物が殺され、苦しめられている現実に触れ、EARTH CRISISは研究所、工場畜産、屠殺場で行われていることを、動物解放の立場から知らせ続けてきたと説明している。
Karl Buechnerが語った作詞の基準
1997年のLollipopのインタビューでKarlは、曲や歌詞を選ぶ際、単に耳へ残るかどうかではなく、どの問題が最も重要かを優先すると説明している。
複数の曲がある場合には、最も重要な歌詞を持つ曲を作品の題名に選ぶこともあった。
Karlは同じ取材で、動物が研究所、毛皮農場、屠殺場、狩猟施設などで経験する苦しみは、現在の文明に必要のないものだと伝えることが、EARTH CRISISの目的の一つだと話している。
Scott Crouseも2018年のNo Echoのインタビューで、Karlの初期の歌詞を、怒りが強く、濾過されず、周囲の政治的な空気に合わせていないものだったと振り返っている。
同時にScottは、歌詞に書かれたすべての暴力的な表現が、文字どおり実行する計画として書かれているわけではなく、怒りを芸術として表現したものでもあると説明した。
Karlが語ったSF的な作詞方法
Karlの歌詞には、文明崩壊、核戦争、生態系の破壊、遺伝子操作によって作られた生命など、SFを思わせる設定が使われることがある。
後年の本人証言でKarlは、自分は調査報道記者やドキュメンタリー制作者ではないと説明している。
現実の活動家や事件をそのまま説明する方法に加え、想像力を刺激する物語を書くことについても語っている。
Karlは、現実に存在する問題を題材としながら、未来やフィクションを思わせる設定を使って歌詞を書く場合があることを説明している。
2000年以前に行われていた遺伝子改変動物の研究
1980年代末には、成長に関係する遺伝子を動物へ導入する研究が行われていた。
1989年にUSDAの研究者たちが発表した「Genetic engineering of livestock」では、ウシ成長ホルモン遺伝子を発現する豚について報告されている。
この研究では、体重増加や飼料効率の改善が見られた。
一方で、胃潰瘍、関節炎、心肥大、皮膚炎、腎疾患なども高い頻度で発生した。
関連する研究では、無気力、跛行、歩行困難、潰瘍なども報告されている。
これらの研究は、「Biomachines」が発表される約10年前に公表されていた。
異種移植
異種移植とは、ある種の動物から取り出した細胞、組織、臓器を、別の種へ移植することである。
人間への移植では、臓器提供者の不足を補う方法として、豚などの動物を利用する研究が進められてきた。
1996年にNational Academiesが発表した『Xenotransplantation: Science, Ethics, and Public Policy』では、動物の細胞、組織、臓器を人間へ移植する技術が、科学、公衆衛生、倫理、政策の面から検討されている。
対象は心臓や腎臓のような臓器だけでなく、細胞や組織も含まれる。
同報告では、臓器不足への対応だけでなく、拒絶反応、動物由来感染症、公衆衛生、患者と家族への影響、倫理、政策の問題も扱われている。
クローン豚と異種移植
2000年9月、PPL Therapeuticsの研究者たちは、成体の体細胞を使った核移植によってクローン豚を作り出したと報告した。
PPL Therapeuticsは、羊のDollyの誕生にも関係した企業である。
同時期に発表された科学誌の解説では、豚は人間と生理学的な共通点を持ち、その臓器を人間への異種移植へ利用できる可能性が、クローン技術の価値として説明された。
『Slither』の発売は2000年6月だった。
その約3か月後には、クローン豚を作る技術と、動物の臓器を人間へ移植する研究が、科学誌の中で結びつけて説明されていた。
研究動物をめぐる米国の法制度
米国のAnimal Welfare Actでは、研究用に繁殖された特定のラット、マウス、鳥類が、同法上の動物の定義から除外されている。
より正確には、研究用に繁殖されたRattus属のラット、Mus属のマウス、研究用に繁殖された鳥類が、USDAによる同法の対象と年次使用数の集計から外れる。
これらは研究で多く使われる動物である。
そのためUSDAが公表する動物使用数は、米国の研究施設で使用されるすべての動物の総数を示していない。
Congressional Research ServiceのAnimal Welfare Actに関する報告や、National Research Councilの資料でも、この法的な対象範囲と研究動物の規制について説明されている。
異種移植と企業活動
異種移植には、大学や公的研究機関だけでなく、製薬企業やバイオテクノロジー企業も参加していた。
Novartisは自社の歴史の中で、1990年代に大規模な研究開発投資を行い、異種移植を当時の研究分野の一つとして扱ったことを記録している。
Alexion Pharmaceuticalsが米国証券取引委員会へ提出したForm 10-Kにも、異種移植プログラム、研究開発費、企業提携、競合技術、商品化の可能性が事業として記載されている。
異種移植は科学研究だけでなく、企業の研究開発、提携、特許、商品化に関わる分野でもあった。
2000年当時の『Slither』評

Internet Archiveに保存されているファンジン『Suburban Voice』第44号の『Slither』評では、アルバムの反生体解剖、反動物実験の立場が認識されている。
評者はEARTH CRISISの熱心な支持者ではなかったが、Karlの言葉が以前より聞き取りやすくなり、曲の内容を理解しやすくなったことを評価した。
これは、Karlが後年語った、歌詞カードを見なくても言葉が伝わる作品にしたかったという目的とも一致する。
アルバムの動物実験反対という主題は、発売当時のレビューにも記録されている。
『Slither』後も続いた動物解放の主題
Scott Crouseは2009年のインタビューで、EARTH CRISISは今後も地球、動物解放、人権を扱うバンドであり続けると説明している。
バンドが目指すものは平和であり、そこへ至る方法について、時に極端に聞こえる言葉を用いることがあっても、歌詞は世界をより穏やかで平和な場所へ変えるための問題と解決策を扱っていると話した。
『Slither』の後も、動物解放はEARTH CRISISが公に挙げる主題の一つとして残った。
Biomachines
Dawn of the Biomachines
生体機械の夜明け
Experiments to spawn the new breed
新たな品種を生み出すための実験
Of half living creatures to butcher for organs.
臓器のために屠殺される、半ば生きた生き物たち。
Transplants extend another’s life span
移植によって、別の者の寿命は延ばされる
Re-created twisted in neo-god’s hands.
新たな神を気取る者たちの手で、ねじ曲げられ、造り直される。
Animals physiologically altered
生理学的に改変された動物たち
To increase the output for human usage.
人間が利用するための生産量を増やすために。
Left immobile as designed.
設計されたとおり、動けないまま放置される。
Trapped in a torturous unexistence.
拷問のような、生きているともいえない状態に閉じ込められて。
Monstrosities brought into being.
おぞましい異形の存在が生み出される。
Behind the walls of laboratories
研究所の壁の向こうで
Crimes go unselen.
犯罪は誰の目にも触れないまま。
Dawn of the Biomachines
生体機械の夜明け
Horrific cruelty inflicted.
恐ろしい残虐行為が加えられる。
Demons in white coats
白衣をまとった悪魔たちが
Leer down at their prey.
獲物をいやらしく見下ろしている。
Trapped in a hell on earth
この地上の地獄に閉じ込められ
That’s unknown – not heard or seen;
誰にも知られず、声を聞かれることも、姿を見られることもない。
Until death they’ll stay.
死ぬまで、彼らはそこに置かれ続ける。
Helpless beings brutalized by madmen
抵抗できない生き物たちは、狂人たちによって残虐に扱われる
Trained to deny that they’re even alive.
彼らが生きていることさえ否定するよう訓練された狂人たちによって。
The basic motive financial gain.
根本にある動機は、金銭的利益。
Profit estimates drown the cries of pain.
利益の見積もりが、苦痛の叫びをかき消す。
Monstrosities brought into being.
おぞましい異形の存在が生み出される。
Behind the walls of laboratories
研究所の壁の向こうで
Crimes go unseen.
犯罪は誰の目にも触れないまま。
Medical Research
医学研究
Subjects aren’t seen as alive.
実験対象は、生きている存在として見なされない。
Behold the dawn
見ろ、夜明けを
Of the biomachines.
生体機械の夜明けを。






