渇きの輪郭

Thirst で続いているのは、消えない渇きだ。

安らぎを探しても届かない。変わりたいと思っても変われない。歌詞は、その状態が終わらずに続くことをそのまま出している。

searching for comfort that I can never attain では、求めているものが最初から届かないものとして置かれている。ここにあるのは、手に入りかけているものへの欲ではない。届かないまま残る不足だ。満たされる見込みがないのに、求めることだけが続いている。

dragging my knuckles / forward but through the mud では、前へ進もうとする動き自体は消えていない。ただ、その進み方は軽くない。泥の中を進むような重さがある。前へ向かう力はあるのに、前進そのものが救いにならない。進んでも楽にならない。

Followed by the thirst が何度も戻ってくるのも大きい。安らぎを探しても、変わろうとしても、また同じ渇きに追いつかれる。流れは前に進んでいるのに、感覚は同じ場所へ戻される。最後も Thirst で終わる。最後まで残るのは渇きだけだ。

一番強いのは、scratching at the surface of my face から I wanna start again に入るところだ。顔の表面をかきむしるという、かなり直接的な身体の動きが出てきたあとに、やり直したいという言葉が続く。ここでは、壊したい気持ちとやり直したい気持ちが切れていない。今の自分の外側を傷つけるところまで行って、やっとやり直したいという言葉が出てくる。変わりたいのに変われない感覚が、ここで一番具体的な形になる。

Bryan Garris は、この時期の曲を不安を起こす方向で考えていたと話している。前みたいにブレイクダウンで人を暴れさせるより、聴き手を怖がらせて、閉じ込められたように感じさせたいという。Bryan は、A Tear in the Fabric of Life の God Knows を聴き返した時、自分が三分くらい息を止めていたように感じたとも言っている。その感覚を新しい作品でももう一度出したかったという話がある。Thirst の落ち着かなさや逃げ場のなさは、この話とよく重なる。ここで鳴っているのは、外へ大きく噴き出す怒りより、内側にたまっていく圧だ。

アルバム全体の景色については、バンド側が southern gothic という方向をはっきり出している。ステージや美術の話では、根にあるのは Kentucky だと説明されている。木や森を実際に立てて、客席から見ると終わりのない森、終わりのない暗さに見えるようにしたという話もある。Thirst に出てくる泥、渇き、表面という言葉は、こういう暗く湿った景色の中に置くと強く響く。抽象語ではなく、沈み込みながら前へ行く身体感覚として立ち上がる。

Kevin は、バンドが大きくなっても Bryan が歌う方向には行かず、重いままで行くことを選んだと話している。コーラス的な考え方を入れても、そこにあるのは結局 heavier riffs だったとも言っている。さらに、最初の段階から core values and ethics を曲げないと決めていたとも話している。広く届く形にはなっていても、曲の中心にある不安や欠落は消されていない。Thirst が薄まって聞こえないのは、その姿勢と離れていない。

Oldham County についての話も、このアルバム期の見え方と重なる。地元には何も起こらない、何も生まれないと思われがちな空気があって、自分たちがそこから出てきた代表になれたら、次の若い連中にも何か残せるかもしれないという話がある。小さな町、郊外、Kentucky という感覚は、バンドの見た目だけではなく、言葉や空気の中にも残っている。Thirst の閉じた感じや息苦しさも、その感覚と離れていない。

アルバム・タイトルの由来については、Bryan が飛行機への恐怖でかなり不安定になっていた時、隣の女性に You won’t go before you’re supposed to と言われ、その言葉をすぐにメモしたと話している。偶然の一言ではあるが、アルバム全体にある不安、死の気配、逃げられない感覚と重なる。Thirst も、安らぎに届かないまま続く内側の圧を切り出した曲として読める。

この曲の終わりに残るのは、解放感ではない。

渇きだ。届かない安らぎだ。今の自分を壊してやり直したい気持ちだ。You Won’t Go Before You’re Supposed To にある不安と圧迫感は、この曲にもはっきり出ている。派手さより、逃げ場のなさが前に出た曲だ。

Thirst は、渇きが消える曲ではない。

渇きに追われたまま終わる曲だ。

Thirst

FOLLOWED BY THE THIRST

渇きに追われて

AN HONEST GAZE LEFT BROKEN AND MARRED

誠実な眼差しは壊され損なわれたまま残された

I AM SCARRED

俺は傷を負っている

FOLLOWED BY THE THIRST

渇きに追われて

FOREVER INFECTED

永遠に蝕まれている

WITH A SHARP NEVER ENDING THIRST

鋭く終わることのない渇きによって

SEARCHING FOR COMFORT

安らぎを探している

THAT I CAN NEVER ATTAIN 

俺には決して辿り着けないそれを

FOLLOWED BY THE THIRST

渇きに追われて

DRAGGING MY KNUCKLES

拳を引きずりながら

FORWARD BUT THROUGH THE MUD

前へ、だが泥の中を

SECLUDED LOWER FORM

閉ざされた下位の存在

SICKENED BY MY THIRST FOR CHANGE

変化への渇きにうんざりしている

REMOVE THE CANVAS

キャンバスを消す

SCRATCHING AT THE SURFACE OF MY FACE 

自分の顔の表面を掻きむしりながら 

I WANNA START AGAIN

もう一度やり直したい

I CAN ALMOST TASTE IT

もうすぐ味わえる

THIRST 

渇き