ジェフ・ネルソンと「Seeing Red」

ジェフ・ネルソンをMinor Threatのドラマーとしてだけ扱うと、この人の大事な部分をかなり落としてしまう。ジェフはTeen IdlesからMinor Threatへ流れ込むDCハードコアの初期を、演奏だけでなく、場の作り方、記録の残し方、見た目の作り方まで含めて支えた人物だった。イアン・マッケイとDischord Recordsを立ち上げ、その後も離れた土地からデザイン、会計、税務を担い続けた。前に出て多くを語るタイプではないが、DCハードコアの骨組みに近い場所にずっといた人だ。

Teen Idlesの時点で、その感覚はもう出ている。未成年が入れないクラブで演奏するために、手に大きなX印をつけて年齢を分ける方法を持ち込み、自分たちの居場所を実際に作った。Teen Idles解散後も、残った金を分けるのではなく、レコードを出して自分たちの活動を記録する道を選んだ。Dischordの出発点には、理想だけではなく、どうすれば残せるか、どうすれば続けられるかという現実的な判断があった。ジェフはそこに最初からいた。

ジェフ本人の証言を読むと、この人の輪郭はかなりはっきりする。本人は自分を完全な平和主義者だと話している。ところが同時に、子どものころから軍服、軍装、軍事史、古い印刷物の図像に強く引かれてきたとも話している。この二つが同じ人間の中に並んでいるところが重要だ。しかもそれは観念の話ではない。イラク戦争の時期、ジェフは自宅前に米兵の戦死者数、負傷者数、イラク人の死者数を示すサインを掲げ、数字が増えれば自分で確認して書き換えていた。戦争が終われば外したいが、終わらない限り外さない。さらに2019年の時点でも、そのサインを下ろさない理由として、中東でまた戦争が膨らむ危険と、イラン攻撃を軽く語る空気に触れていた。ジェフの反戦感覚は昔の話では終わっていない。

ドラムへの入り口も、この人物像と切れていない。ジェフは子どものころに見た鼓笛隊に強く引かれ、学校ではスネアを学び、一定の拍を守る感覚を身につけた。Minor Threatの演奏がただ速いだけで終わらず、異様に締まって聞こえるのはこの背景を知るとよく分かる。本人も、自分はルーズなプレイヤーではなく、ジャム的な演奏には向いていないと話している。良くなるならやる。良くならないならやらない。その完璧主義が、Minor Threatの短く硬い曲の芯に入っていた。

その感覚は演奏の細部にも出ている。Minor Threat期のジェフは、マメを防ぐために手袋を使い、絆創膏を何枚も貼っていた。シンバルを高く置いたのも、強く叩くためであり、動きを大きく取るためでもあった。速さの影響源として挙げている名前もBad Brainsだけではない。DOA、Ruts、Circle Jerks、Cuban Heels、Van Halenまで入ってくる。Minor Threatの速度は若さだけで回っていたわけではない。ジェフの中には、この速さでも崩れない演奏をどう作るかという具体的な感覚があった。

ジェフは音だけの人でもない。かなり早い時期から、文字、看板、ポスター、図案に強い関心を持っていた。後にDischordのデザインを担い、音源を物として残すことにも深く関わっていく。レコードは音だけで終わらない。紙、印刷、文字の配置、手に持った時の感触まで含めて作品だという感覚がジェフにはあった。Toledoへ移ったあとも、その感覚は消えていない。地域の建築保存運動でロゴや大判ポスターを作り、橋や建物や古い印刷物にも深い執着を見せている。ジェフは最初から視覚の人でもあった。

記録への執着も同じ線上にある。ジェフは日記をつけ、資料を残し、写真や印刷物を保存してきた。本人も、記録を残す感覚は家族から受け継いだものだと話している。だからジェフは単なる元メンバーでは終わらない。DCパンクの歴史が後から語られる時、その裏には記録を残し続けた人間がいる。Punk the Capitalのようなプロジェクトに接続した時にも、ジェフは当事者であるだけでなく、保存者として機能する。残す意識を早い段階から持っていたことが、この人の大きな特徴だ。

Minor Threat内部でのジェフの重要さも軽く見られない。バンドは最初からずっと緊張を抱えていた。人気が出てからも惰性で続ける方向には行かなかった。Dischordの所有構造も、メンバー間の摩擦の一因だったとイアンは振り返っている。さらにOut of Stepの再録時には、歌詞の響き方そのものが問題になった。命令のように聞こえることへの違和感があり、最終的には自分自身の選択として聞こえる形へ修正された。この流れを見ると、ジェフは演奏だけでなく、言葉がどう届くかにも敏感だったことが分かる。

そのジェフが歌詞を書いた唯一のMinor Threat曲がSeeing Redだ。ここがこの曲を読むうえでいちばん重要な出発点になる。イアン・マッケイは、自分がMinor Threatの歌詞をほとんど書いたが、Seeing Redだけはジェフが書いたと明言している。別の回想でも、曲は自分、歌詞はジェフだと話している。Seeing Redは、Minor Threatの中でも例外的にジェフの感覚が前に出た一曲だ。

歌詞の中身を見ると、この曲が向けている怒りはかなり具体的だ。群れの中の安全な位置から笑う相手、見た目だけで人を決めつける相手、言葉を交わす前に最悪だと判定する相手に向けた怒りでできている。大きな政治理論を並べる歌ではない。もっと近い距離の視線、嘲り、レッテル貼りへの反発が中心にある。だからこそ、この曲はMinor Threatの中でも妙に生々しい。

ここにジェフという人物を重ねると、Seeing Redの輪郭はさらに締まる。反戦サインを毎日更新するほど現実の数字に執着し、古い軍装や印刷技術の美しさにも引かれ、演奏では精度を求め、言葉の響きにも敏感だった人物が書いた歌だと思うと、Seeing Redの短さと硬さは偶然に見えない。長く説明しない。余計な飾りもつけない。相手に向ける怒りを一気に叩きつける。その切れ味に、ジェフの性格がよく出ている。

ジェフ・ネルソンは、イアンほど前に出て多くを語る人物ではない。そのため見落とされやすい。だがTeen Idlesの場作り、Dischordの立ち上げ、Minor Threatの精密な推進力、デザインと保存への執着、平和主義と軍事図像への複雑な反応、そしてSeeing Redという一曲を並べると、この人がDCハードコアのかなり深い場所にいたことははっきり見えてくる。ジェフは脇役ではない。平和主義者で、記録魔で、視覚の人で、妥協しないドラマーだった。その複雑さごと見た時、Seeing RedはMinor Threatの中でもかなりジェフらしい一曲として立ち上がる。

Seeing Red

You see me and you laugh out loud

おまえは俺を見ると大声で笑う

You taunt me from safe inside your crowd

おまえは仲間に囲まれた安全圏から俺をコケにする

My looks, they must threaten you

俺の見た目が、おまえを脅かしているに違いない

To make you act the way you do

だからおまえはそんなふうに振る舞うんだ

 

Red, I’m seeing red

怒りで、俺はブチギレている

 

You see me and you think I’m a jerk

俺を見ると、おまえは俺を嫌な奴だと思う

First impressions without a word

言葉も交わさないうちの第一印象

You can’t believe your eyes at first

最初は自分の目が信じられない

But now you know you’ve seen the worst

だが今では俺みたいなのが最悪だと決めつけている

 

Red, I’m seeing red 

怒りで、俺はブチギレている