Obelisk の Paralyze は、音だけ先に聴くと、ひたすら圧で押し潰してくる凶悪なデスコアに聞こえる。ところが歌詞の中身は、血や殺戮を真正面から押し出す方向へ進まず、意識はあるのに身体が動かない、見たくないものだけが近づいてくる、というかなり身近な恐怖へ向かっている。そこがこの曲の面白さだ。音圧は強烈なのに、歌詞が描いている怖さは、いわゆる金縛りにかなり近い。Paralyze は、派手な怪奇譚というより、眠りと覚醒の境目で身体の主導権を失う感覚を、重いデスコアの音で増幅した曲として聴くと輪郭がはっきりする。
Obelisk というバンド自体も、今わかる範囲だけで見るとかなり個性的だ。
公開情報では、Obelisk はミズーリ州ジョプリンとウェストバージニア州シンクスグローブを拠点にする二人組として紹介されている。Paralyze 期の告知では、Darien Deilami がボーカル、Dominick Alexander Ford がインストを担当していたことも確認できる。大人数のフルバンドというより、少人数で音を構築していくプロジェクト色が強く、そのことが Paralyze の隙間の少ない圧や、逃げ場をふさぐような密度にもつながっているように見える。
Paralyze は 2020 年の EP『Emovere』に収録された曲だが、Obelisk はそのあとも止まっていない。
2021 年の『Spirit Fallacy』『The Anatomy of Hate』、2022 年の『This is Fear』、2023 年の『Violently Twisted and Sickly Disturbed』、2024 年の『The Essence of the Abyss』まで、少しずつ作品を積み上げている。つまり Obelisk は、Paralyze 一曲だけで終わる存在ではなく、小規模な体制のまま継続して作品を出し続けている underground deathcore の一組として見るほうが自然だ。
このバンドの輪郭をさらに見えやすくしているのが、Cellar Rat Recording という名義だ。
Paralyze を含む『Emovere』以降の作品群には、配信クレジット上で Cellar Rat Recording の表記が継続して出てくる。公開情報では、この名義はワシントン州アナコルテス拠点の small project studio として出ていて、recording、mixing、mastering を請ける制作拠点として紹介されている。大きな独立レーベルとして断定するには材料が足りないが、少なくとも Obelisk にとっては、録音と配信を支える小規模な制作基盤として機能していると見てよさそうだ。Paralyze の圧縮された重さや録音物としてのまとまりを考えると、この制作環境の存在はかなり大きい。
そのうえで歌詞を見ると、この曲の怖さはかなり明快だ。
タイトルの Paralyze は、単に麻痺するという意味より、自分の身体を自分で動かせなくなる状態そのものを突いている。歌詞は、背筋を走る寒気、近づいてくる夜、また動けなくなったという流れで始まる。ここでの恐怖の中心は、何かに襲われることより前に、逃げたいのに逃げられないことだ。しかも語り手は、この体験を一度だけではなく、以前にも味わっている。Paralyze は、怪奇現象の一回性ではなく、夜ごと繰り返される恐怖として描かれている。
この構造は、睡眠麻痺、いわゆる金縛りの体験談とかなり近い。
意識はある。寒気もある。異様なものも見える。けれど身体は動かない。助けを求めたいのに自由が利かない。こうした要素が順番に並ぶことで、この曲は抽象的なホラーではなく、身体感覚を持つ怖さになる。Forced to watch this spectacle of specters という感覚も大きい。見ることをやめられないまま、見たくないものを見せられる。この曲が怖いのは、暴力そのものより、視界と身体の両方を奪われるところにある。
さらに気味悪いのは、現れるものの正体が最後まで定まらないことだ。
specters、disfigured、unrecognized といった語が続くことで、相手は明確な敵として描かれない。亡霊のようで、顔は崩れ、誰かも分からない。目だけが異様で、表情は空白に近い。Paralyze の恐怖は、はっきり見える怪物との対決ではなく、認識しきれないものがじわじわ近づいてくる怖さにある。だからこの曲は、スプラッターの分かりやすい残酷さより、悪夢の中で理屈の通じないものを見せられる不快さに近い。
I lived over a thousand lives, while simultaneously imprisoned in my mind という一節も印象に残る。
ここには、時間感覚の歪みと意識の閉じ込められ方がある。何度も別の生を経験したようなのに、同時に自分の心の中へ閉じ込められている。この感覚は、夢の中で時間だけが妙に長く伸びる感じや、身体は眠っているのに意識だけが取り残される感じに近い。Paralyze が描いているのは、幽霊そのものより、自分の意識と身体の接続が壊れる瞬間の不気味さだと考えたほうが深い。
ここで Obelisk の音に戻ると、この曲の重さの意味も見えてくる。
Paralyze の音圧はかなり強いが、その重さは外へ向かう攻撃性だけでできていない。むしろ、逃げ場のない閉鎖感を身体で感じさせるための重さとして機能している。音が重いから怖いというより、身動きが取れない状態を音の密度そのもので再現しているように聞こえる。二人組で、しかも小規模な制作基盤を持ちながら継続して作品を出しているという事実まで重ねると、Paralyze の圧は偶然の重さではなく、Obelisk というバンドの作り方そのものから出ているように見える。
現時点でライブ活動の痕跡は確認しにくい。
出演告知、セットリスト、ライブ映像、イベントフライヤーまでは見つからず、外から見えるのは配信作品と公式リリックビデオ、短い告知文が中心だった。だから今の Obelisk は、ツアーバンドとしてより、録音作品を中心に存在感を広げている二人組プロジェクトとして捉えるほうが実態に近い。ただ、そのことは弱さではない。Paralyze のように、録音作品の中でバンドの個性をはっきり出せているなら、それ自体が強みになる。
Obelisk を初めて聴く人にとって、Paralyze はかなり良い入口になる。
二人組という体制、継続して作品を出している現在地、Cellar Rat Recording という制作基盤、そしてゴリゴリの音のわりに妙に身近で説明しやすい恐怖。Paralyze は、設定を複雑にしすぎず、動けない、見たくないものが見える、助けを求める、朝になっても救い切れない、という流れを素直に追わせる。そこに容赦のない音圧が重なることで、Obelisk の個性がかなり鮮明に出ている。重いだけのデスコアとして流すには惜しい一曲だ。
Paralyze
I feel it
そう感じる
The cold chill that runs down my spine
背筋を走る寒気を
My hour approaches
その時が近づいている
The night beckons as its frozen
凍てついた夜が誘うように迫ってくる
And I can’t move again
そして、また動けなくなってしまった
I’ve live this before
以前にも同じような経験をしたことがある
Forced to watch this spectacle of specters
この亡霊たちの光景を無理やり見させられる
Paralyzed
麻痺した
Paralyzed
麻痺した
I’m reminded of a lack of control
制御不能を思い知らされる
Of control
支配の
Bodily nerves leave my being
身体の神経が俺から離れていく
Leaving me to a state of seeking
俺を模索する状態に置き去りにして
Something to wake me up
目を覚ますための何か
Night after night, I’ve had enough
来る夜も来る夜も、もううんざりだ
I lived over a thousand lives, while Simultaneously imprisoned in my mind
俺は千回以上も生まれ変わってきて、それと同時に自分の心の中に幽閉されていた
But only when the clock strikes
しかし時計の針が時を告げる時だけ
I see their faces
ヤツらの顔が見える
Disfigured, unrecognized
変形して、認識不可能
Someone come help me
誰か助けてくれ
Come help me
助けに来てくれ
They’re inching closer
ヤツらは徐々に近づいている
As I gaze into their abysmal eyes
ヤツらの底知れぬ瞳をじっと見つめながら
They’re inching closer
ヤツらは徐々に近づいている
As I gaze into their blank faces
ヤツらの無表情な顔を見つめながら
I gain my sense of dread
俺は恐怖を感じる
I awake, hoping this reality isn’t fiction
目を覚ますと、この現実がフィクションではないことを願う
Oh god, is there a salvation
ああ神よ、救いはないのか






