
REGRESSIONはH8000の中で何を押し広げたのか
REGRESSIONは、H8000の中で音の重さを一段階深い場所まで押し下げたバンドだった。H8000はベルギー西フランデレン周辺で広がったハードコアのネットワークで、straight edgeやベジタリアンの価値観、スケートの感覚、そしてメタル化した重い音が強く結びついていた。その中でREGRESSIONは、ただシーンに参加していたのではない。straight edge hardcoreの精神を土台にしながら、そこへより鈍重で、より暗く、よりdeath metalに近い質量を持ち込み、H8000の重さの基準そのものを押し下げたバンドだった。
確認できる流れとしては、REGRESSIONはMenenとRoeselare周辺から現れ、1995年にデモを録音し、1996年にHeartless、1997年にBreachとの6 Song Split CDを残している。活動期間は長くない。だが、その短い時期だけでも、このバンドがH8000の中でかなり独特な位置にいたことは見えてくる。後から神話化された存在ではなく、当時からすでに、普通のメタリック・ハードコアよりさらに重い側へ踏み込んだバンドとして受け取られていた。
そのことは、当時の紹介文からも分かる。REGRESSIONはMenen/Roeselareのバンドとして、vegan straight-edge hardcore、あるいはcrunchy metallicなバンドとして説明されている。さらに、edge-metal勢の中でもかなり重い存在で、death metalの非妥協な重量感とstraight edge hardcoreの精神がぶつかったバンドとして位置づけられている。Hans Verbekeまわりの説明でも、REGRESSIONはCarcassとMachine Headの影響を受けた独自のtechnical hardcore/metalを作ったと整理されている。ここで大事なのは、REGRESSIONが後からそう読まれているのではなく、当時の時点で既に、H8000の中でも深くmetal側へ踏み込んだバンドとして認識されていたことだ。
REGRESSIONは、Vo. Niek Jacobsen、G. David Decoutere、B. Kristof Taveirne、Dr. Björn Lescouhierを中心に動いたバンドで、のちにDeformityのDavy Vanlokerenが2nd Gt.として加わった。さらに後にはLaurentの名前も後任として出てくる。
ただ、このバンドの始まりは、思想やジャンルの整理からではなかった。後年のNiek JacobsenとDavid Decoutereの対話では、REGRESSIONはまずスケート仲間の延長として始まったことが語られている。Niekは、自分たちは最初からskate bandの感覚だったと振り返る。街でNew Dealのシャツを着たKristof Taveirneを見つけ、あれはスケーターだと分かって声をかけ、そこから一緒に滑るようになり、やがて一緒にバンドをやるようになったという流れだ。ここから見えるのは、REGRESSIONが最初から思想の看板として立ち上がったのではなく、地元の生活圏の中にいた仲間たちが、スケートとハードコアを通じて結びつき、その先で音を鳴らしたバンドだったということだ。H8000の連帯感は、こうした日常の延長から生まれている。
とはいえ、身近な始まりだったからといって、音の方向まで曖昧だったわけではない。Niekは、KristofがYouth Of TodayやShelterを聴くhardcore kidだったと振り返っている。その一方で、自分たちはユースクルー的なstraight edgeから入りながら、そこからさらにIntegrityやRingwormの方へ強く引っ張られていったとも話している。別の資料でも、REGRESSIONにはCarcass、Machine Head、Integrity、Ringwormの影響があったと整理されている。本人たちの振り返りと周辺資料が、ここではかなりきれいにつながっている。つまりREGRESSIONは、Youth Of TodayやShelterのようなstraight edgeの入口から出発しながら、その先でより陰鬱で、より邪悪で、より重い方向へ進んだバンドだった。H8000の中でREGRESSIONが果たした役割は、この移行をかなり極端な形で音にしたことにあった。
Davidの証言からは、その重さが偶然ではなく、かなり意識的に作られていたことも見えてくる。彼は低いチューニングについて具体的に話していて、自分たちはかなり早い段階から低いセッティングに踏み込み、重い音を出すために自分たちで試行錯誤していたと振り返っている。当時は今のように検索すれば答えが出る時代ではない。映像を見て、耳で聴き取り、機材やチューニングを自分たちで探りながら作っていくしかなかった。Davidは音作りや機材にもかなり意識的で、重さを出すための工夫を続けていた。Niekもまた、自分たちは最初から軽いパンクをやるつもりはなく、ずっとheavyなものをやりたかったと振り返っている。REGRESSIONの音の重さは成り行きでそうなったものではない。最初からそこを狙っていた結果だった。
その結果として、REGRESSIONはH8000の中でも特に重いバンドとして受け取られていった。NiekとDavidの対話では、自分たちはH8000でいちばん重いバンドだと言われていたことが話題に上がる。Davidも、それは実際によく言われていたと認めている。ここで重要なのは、彼らが速さや派手さだけで勝負していたわけではないことだ。Congressのようなスラッシーな重量感とも少し違い、REGRESSIONはもっと低く、もっと鈍く、もっと押しつぶすような圧力を目指していた。Davidは自分たちの狙いを、もっとcrushingで、もっとDisposed的な質感に近いものとして振り返っている。REGRESSIONがH8000の中で果たした役割は、シーンを速くしたことではなく、シーンの底の方にある重さを、もっとはっきり可視化したことだった。
REGRESSIONの位置をさらにはっきりさせるなら、同じH8000の中の他バンドとの違いも見ておく必要がある。Congressがシーンの象徴として前に立ち、Liarが思想と攻撃性を強く打ち出したとすれば、REGRESSIONはその土台をさらに低く、さらに重くした側にいた。straight edgeの価値観を保ちながら、音だけはよりdeath metalに近い質量へ沈み込ませた。その意味でREGRESSIONは、H8000の外れにいた異物ではない。H8000の重さの限界を押し広げたバンドだったと言った方が正確だ。
straight edgeとの関係も、表面だけのものではなかった。Niekは、自分にとってREGRESSIONはかなり明確なstraight edge bandだったと話している。さらに彼は、学校の周囲では飲酒や喫煙が普通だったが、自分はその空気になじめず、飲まない、吸わない人間が大量にいるハードコアの場を見つけたことが大きかったとも振り返っている。これは単なる禁欲の話ではない。straight edgeが居場所として機能していたということだ。Davidもまた、当時のstraight edgeには強いgroup feelingがあり、自分たちは外ではoutsiderだったが、ショウの会場に行けば、同じ考えを持つoutsiderが一つの部屋に集まっていたと話している。REGRESSIONのstraight edgeは、規律や標語だけではなく、居場所と連帯の感覚と結びついていた。だから彼らの音の重さには、音響の重さだけではなく、外では浮いてしまう人間たちが中でつながった時の密度も含まれていた。
ヴィーガンやベジタリアンとの関係も、あとから付け足されたイメージではない。周辺資料では、REGRESSIONはYouth Of Today、Gorilla Biscuits、Earth Crisisからstraight edgeとvegetarian lifestyleの影響を受けたと整理されている。後年のNiekの話はそれをさらに裏づける。彼はEarth Crisisについて、自分にとってgame changerだったと語っている。Firestormの7インチをみんなが持っていたこと、そのレコードを手に入れるために動いたこと、hardcore vegan straight edgeという言葉に強い衝撃を受けたことも話している。さらに彼は、当時のREGRESSIONでは少なくとも一時期、メンバー全員がベジタリアンだったはずだとも振り返っている。それは規律として押しつけられたというより、周囲の影響もあり、シーンの中では自然なものとして受け入れられていたからだという説明だった。ここから見えるのは、REGRESSIONにとってヴィーガンやベジタリアンは飾りではなく、H8000の生活感覚の中に実際にあったものだということだ。
ここで、フューリーエッジという言葉との関係も整理しておきたい。今ではH8000周辺の重く鋭い流れをまとめてフューリーエッジと呼ぶことがある。後年の視点から見れば、Liar、Spirit Of Youth、Shortsight、Congress、そしてREGRESSIONまで含めて、その流れの中に置いて考えることはできる。だが、今回の一次証言や当時の説明で、REGRESSION自身に強く結びついている言葉は、フューリーエッジよりもedge-metal、vegan straight-edge hardcore、technical hardcore/metalの方だ。Liarがstraight-edge metallic hardcore with non-compromising, hard-hitting lyricsと説明されるなら、その近くにいたREGRESSIONは、そのedge-metalをさらにdeath metal側へ沈み込ませた存在として理解する方が当時の実感に近い。後年の整理語としてフューリーエッジを使うことはできるが、REGRESSION本人たちを説明する軸としてはedge-metalの方がずれにくい。
1997年のBreachとの6 Song Split CDは、こうしたREGRESSIONの位置を考えるうえでも重要な作品だった。相手のBreachはスウェーデン北部Luleåで1993年に結成され、Burning Heart Records周辺で活動した重く暗いハードコアのバンドで、1995年のFrictionから1997年のIt’s Me Godにかけて、メタルの質量を持ちながらポストハードコアやノイズ寄りの緊張感も強めていった。つまりこの時期のBreachは、スウェーデン側の重いハードコアの一つの前線にいたバンドだった。REGRESSIONがそのBreachとsplitを出していたという事実は、H8000の地元シーンで育ったこのバンドが、ベルギーの内側だけで完結した存在ではなかったことを示している。現時点で、なぜこの組み合わせだったのかをメンバー本人が説明した一次発言までは確認できていない。だから思想が完全に一致していたと断定することはできない。ただ、Good Life RecordingsとBurning Heart Recordsという二つのレーベル圏が交差し、90年代後半ヨーロッパの重いハードコア同士が接続された作品として見るのがいちばん自然だ。
また、REGRESSIONはH8000の理想だけを体現したバンドでもなかった。Niekは、最初の頃のシーンには仲間意識があり、みんなが友達で、お互いのTシャツを着てショウに行っていたと振り返っている。だが、バンドが増え、シーンが広がるにつれて空気は変わっていった。violent dancingが過剰になり、昔はもっと女の子もピットにいて、シンガロングやステージダイブ中心だったのに、やがてwindmillやkarateじみた動きと、過剰なテストステロンの空気が前に出るようになったという。Davidもまた、かつては強かったgroup feelingが後には薄れていったように感じると話している。ここはREGRESSIONを理解する上でかなり大きい。彼らはH8000の共同体の中から生まれたが、その共同体が変質していく過程も見ていた。REGRESSIONの短命さは、単に人気や力量の問題ではなく、H8000そのものが変わっていく中で、最初にあった連帯の形が崩れていく、その揺れとも重なっている。
では、REGRESSIONをH8000の中でどう位置づけるべきか。先駆者という意味ではNation On FireやRise Aboveの方が早い。シーンの代表格としてはCongressやLiarの方が前に出やすい。だが、REGRESSIONには別の役割があった。このバンドは、H8000が持っていたstraight edge、vegetarian、skate、outsiderの連帯という土台を保ちながら、その上で音をもっと低く、もっと硬く、もっと圧力の高いものにした。Youth Of TodayやShelterから入り、IntegrityとRingwormを通り、CarcassとMachine Headの方へ進む。その流れが一つの塊として成立しているのがREGRESSIONだ。だからこのバンドは、H8000の周辺にいた異端ではない。H8000がどこまで重くなれたかを示した中心の一つとして見る方が正確だと思う。
REGRESSIONの価値は、活動歴の長さでは測れない。1995年から1997年までの短い期間で、H8000の中のstraight edge hardcoreが、どこまでmetalと結びつき、どこまで重く、どこまで硬いものになれたかを、このバンドはかなり極端な形で示した。しかも、それは音楽的な実験だけでは終わっていない。スケート仲間から始まり、straight edgeを居場所として受け取り、Earth CrisisやIntegrityから衝撃を受け、ベジタリアンやヴィーガンの空気を生活の一部として吸い込み、そのうえで地元の仲間と一緒に圧力の高い音を作った。REGRESSIONがH8000の中で果たした役割は、音を重くしたことだけではない。H8000の思想と生活感覚を、最も密度の高い音の形で鳴らしたことにある。
その背景を踏まえると、PYROCLASMの見え方も変わってくる。この曲では、焼死体、世界的焼却、集団火葬、沸騰する海、炎に包まれた森といったイメージが連続し、世界そのものが焼け落ちていくような終末感で統一されている。ここで描かれているのは、単なる残酷描写ではない。REGRESSIONが持っていた圧力、閉塞感、そしてedge-metalとしての重い音像が、そのまま歌詞の世界に流れ込んだような感触がある。しかもPYROCLASMは、1997年のBreachとのsplitに収められた曲の一つとして見ることで、より意味がはっきりする。1995年デモ、1996年のHeartlessを経て、1997年のsplitに至った時点で、REGRESSIONの音はH8000内部の若いvegan straight-edge hardcoreから、より広いヨーロッパの重音ハードコアの文脈へ接続されていた。その節目に置かれたPYROCLASMは、REGRESSIONの終末的な想像力と音の重さがもっとも分かりやすく噴き出した一曲として読める。
ただし、ここで線を引いておきたいのは、現時点で確認できる範囲では、この曲の着想源を作詞者本人が明言した一次発言までは押さえられていないという点だ。核戦争や世界的破局のイメージとして読むことは十分できるが、それ以上を断定するのは避けた方がいい。むしろここで確かなのは、REGRESSIONがH8000の中で育てたstraight edgeの精神、veganやvegetarianの生活感覚、outsiderの連帯、そしてedge-metalとしての圧倒的な重量感が、この曲の終末的な空気を支えているということだ。PYROCLASMは、ただショックを与えるための曲としてではなく、REGRESSIONというバンドが持っていた世界の重さが、そのまま噴き出した曲として読む方がしっくりくる。
PYROCLASM
Sweet smell of gasoline
ガソリンの甘い香り
Fragrance of the burnt
焼け焦げた香り
Bodies burnt beyond recognition
見分けがつかないほど焼け焦げた遺体
Crisped to the bone
骨まで焼け焦げていた
Mothers holding their children,
子供を抱いた母親たち、
Reshaped to a smouldering black substance
くすぶる黒い塊へと姿を変えた
Melt metal, pulverised forests
金属を溶かし、森を粉々にする
Nothing will remain
何ひとつ残らない
Chorus:
Burnt to death
焼け死ぬ
Global incineration
地球規模の焼却
Scalded to death
熱で焼かれて死ぬ
Collective cremation
集団火葬
Boiling oceans
沸騰する海
Forests in flames
炎に包まれた森
Won’t rest ‘til everything’s charred
すべてが黒焦げになるまで収まらない
Nothing will escape the hellfire
地獄の炎から逃れられるものは何もない
Chorus






