
The Acacia StrainのBitter Pillは、ただ暴力的な言葉で相手を追い詰める曲として聴くと、肝心の重さを取り逃がしやすい。2017年3月に先行公開され、同年6月30日に出たGravebloomの入口として置かれたこの曲には、当時のVincent Bennettが抱えていた内面的な苦しさ、行き場のない怒り、そして未来そのものが痩せ細って見える感覚が濃く流れ込んでいる。荒れ地、吊るされた身体、枯れた森、空っぽの未来、神さえ救いの側にいない世界。そのどれもが、単なるショック要素ではなく、苦しみが景色そのものを壊してしまった時の見え方として読むと、曲の輪郭が急にはっきりしてくる。
この曲を深く読むうえで重要なのは、Gravebloom期のThe Acacia Strainが、以前の外向きの怒りから、より内面へ沈み込む書き方へ移っていたことだ。Vincent Bennettはこの時期、自分自身の問題、自分の苦難、自分の頭の中へ焦点が向かったと話している。若い頃のように、世界が嫌いだ、人が嫌いだと吐き捨てるだけの歌詞ではなく、その怒りを生んでいるものそのものへ視線が向かった時期だった。だからBitter Pillに並ぶ終末的な言葉も、外の世界を雑に呪うための装飾ではなく、自分の中で起きている崩壊が風景へまで広がって見えている状態として受け取ると、ずっと自然に読める。
冒頭の silver tongue has turned to shit は、その冷たさを端的に示している。silver tongue には、人を言いくるめる話術、相手を丸め込むうまさ、聞かせる力のような響きがある。その舌が腐った。さらに as time passes on you will wither with it と続くことで、失われるのは言葉の力だけでは済まない。その言葉で立っていた人間自身も、時間と一緒にしぼんでいく。ここにあるのは、激情の噴出より、相手の終わりをもう見切ってしまった人間の視線だ。続く these are the days you will never get back には、取り返しのつかなさがある。いま起きているのは、単なる口喧嘩でも瞬間的な怒りでもない。戻らない時間を含んだ破綻だ。
その空気をさらに濃くするのが、we exist inside a wasteland から広がる景色である。rolling fields of agony、bodies hanging lifeless、in a forest of dying trees。苦痛の野、命の抜けた身体、死にかけた森。ここまで生の気配を奪った言葉が並ぶと、目の前の世界そのものが荒れ果てているというより、語り手の感覚そのものがすでに荒廃へ染まっているように見えてくる。現実が壊れているのか、自分の見え方が壊れているのか。その境界が溶けていることが、この曲の不気味さを支えている。Bitter Pillの怖さは、悲惨なことが起きるからではない。見えるものすべてが終わって見える地点から声が出ているところにある。
この曲の中心を貫くのが、I am the butcher という自己規定だ。肉屋という訳語だけでは少し足りない。ここで鳴っているのは、切る者、屠る者、終わらせる者としての名乗りだ。Everything I see I kill と続くことで、その暴力性は個人的な復讐を超えていく。相手ひとりを狙う怒りではなく、視界に入るもの全体を壊したい衝動そのものが語り手になっている。そこにあるのは、被害者のままで終われなかった人間の声だ。傷ついた側にいたはずのものが、いつのまにか破滅を配る側へ回ってしまう。そのひっくり返り方こそ、この曲のいちばん嫌な魅力でもある。
曲名にもなっている bitter pill は、そのままこの歌の核だ。swallow sorrow’s bitter pill という命令は、悲しみを飲み込めと言っているだけではない。直後に you have no immediate future、the future isn’t open, it’s bleak and fucking empty と続くことで、ここで飲み込まされるものの正体が見えてくるからだ。この曲で苦いのは悲しみだけではない。先に何かが待っているという感覚そのものが失われていることだ。未来は閉ざされているというより、中身がない。暗く、空で、手を伸ばす価値さえ薄れている。だからBitter Pillは、悲しみの歌というより、希望の不在を無理やり受け入れさせる歌として重く響く。聴き手に突きつけているのは痛みの事実だけではない。もう先へ進めるという前提が崩れた状態そのものだ。
後半に入ると、最後の逃げ場のようなものまで消えていく。keep crying to your god, he’s the one who fucking sent me という一節によって、祈りの先にいるはずの神は、守る側ではなく、破滅を送り込んだ側として現れる。unholy left hand、the prophet of doom という言葉も同じ流れの中で鳴っていて、宗教的な語は回復や赦しへ向かわず、不吉さと終末感を増幅させるために使われている。ここで救いは弱いのではない。そもそも置き場ごと腐っている。この構図があるから、Bitter Pillは救いが間に合わない歌ではなく、最初から救いを期待できない歌として響く。
終盤の save your tears, you’ll need them soon から you will be the first, the most deliciously devoured に至る流れも強烈だ。泣くなと言っているのではない。もっと泣くことになるから取っておけ、と言っている。そのうえで、最初に食われるのはおまえだと告げる。しかも deliciously という語が混ざることで、破滅はただ起きるものではなく、味わわれるものへ変わる。この残酷さがあるから、Bitter Pillは単純な自己憐憫へ落ちない。苦しみを吐き出すと同時に、苦しみが人をどこまで歪めるかも見せてしまう。怒りだけでも、悲しみだけでもない。痛みが人格と世界観そのものを変質させた時の声として、この曲は成立している。
この読みに重みを与えるのが、Gravebloom制作時のVincent Bennettの発言だ。彼はこの作品を、自分の過去4年から5年の本当に惨めだった時期についてのレコードだと語っている。しかも書くことそのものが怖く、完成後もしばらく聴き返せなかったという。歌詞が自分自身の問題、自分の苦難、自分の頭の中を扱ったものになったのも、この時期ならではだった。そう聞いたあとでBitter Pillを読むと、荒野や死や腐敗のイメージが、作り物めいた誇張から一段離れて見えてくる。過剰な比喩のようでいて、その根の部分にはかなり生身の苦しさがある。
制作の進み方も、この曲の切迫感とよく噛み合っている。Gravebloomは、ツアーの合間にホテルへこもって急いで組み立てられた。Vincentはその過程をかなりストレスフルだったと振り返りつつ、同時に、その圧力が創造性を押し進めたとも話している。さらに別のインタビューでは、それをほとんど survivalism のような感覚だったとまで語っている。生き延びるために作るような切迫感があったということだ。Bitter Pillの中に流れている焦燥や圧迫感が、ただの演出に見えないのはここが大きい。言葉の内容だけでなく、作られ方そのものに追い詰められた空気が入っている。
もうひとつ見逃せないのは、Vincentが歌詞を最初から一曲丸ごと書き上げるのではなく、line by line で断片を積み上げ、後からまとめていくと話している点だ。この作り方を知ると、Bitter Pillの圧縮された言葉の連なり方にも納得がいく。silver tongue、wasteland、butcher、bitter pill、god、doom。ひとつひとつは独立して強いのに、説明を増やしすぎず、断片が次の断片へ飛んでいく。その飛躍があるから、この曲は理屈を並べた告白文にならない。断片的な悪夢が連続し、ひとつの息苦しい感触を作っていく。Bitter Pillが妙に後を引くのは、その構造自体が思考より先に気分を刺してくるからだろう。
さらにこの曲は、アルバムの中に埋もれた一曲ではなかった。公開時に first peek として出され、アルバムの最初の手がかりになった。しかもVincentは、リリース前からBitter Pillをライブで披露していて、反応は良かったと語っている。Warped Tourの文脈では、通りすがりの観客を捕まえることを自分たちの mission statement のように話していたが、その時期に最初の入口としてBitter Pillが置かれたのは象徴的だ。重さだけでなく、閉塞と内省まで含んだこの曲を先に出したことで、Gravebloomという作品の顔がかなり明確になった。The Acacia Strainはこの時期、自分たちの重さを更新したかっただけではない。何が自分たちをここまで重くしているのかも、作品の中へ持ち込みたかったのだと思う。
そして、その暗さは単なる自壊では終わっていない。Vincentは、音楽は聴く側だけでなく作る側にとっても治療的な出口だと語っている。悲しみや怒りを押し込めたままにしないために、創作が必要だとも話している。自分たちはネガティブなバンドに見えるかもしれないが、そのネガティブさには前向きな理由があるとも言う。この視点を踏まえると、Bitter Pillは絶望を広げる曲というより、絶望から目を逸らすなと迫る曲として読める。痛いものを痛いと認めること、空っぽなものを空っぽだと見切ること、そのうえでなお声を出すこと。その姿勢があるから、この曲はただ暗いだけで終わらない。
Bitter Pillを読み終えた時に残るのは、派手な残酷さそのものより、世界の見え方が変わってしまった感覚だ。取り返しのつかない日々があり、逃げ場はなく、未来は空で、祈りの先まで腐っている。その状態でなお声を出すなら、出てくる言葉はここまで極端になる。The Acacia Strainの中でもこの曲が妙に後を引くのは、重いからでも、怖いからでも足りない。苦しみが景色そのものを終わらせてしまう瞬間を、短い言葉の連打で容赦なく固めているからだ。タイトルの Bitter Pill が最後まで効いてくるのもそのためで、ここで飲み込まされるのは悲しみだけではない。元に戻れるかもしれないという期待まで含めて、苦い塊として喉へ落ちていくのである。
Bitter Pill
Your silver tongue has turned to shit
おまえの巧みな話術はクソな状態
As time passes on you will wither with it
時が過ぎゆくにつれておまえもまた共に枯れていく
These are the days you will never get back
それらは二度と戻らない日々だ
You’re fucking trapped
おまえは完全に閉じ込められてる
We exist inside a wasteland
俺たちは荒れ地の中に存在する
Rolling fields of agony
苦痛のうねる草原
Bodies hanging lifeless
吊るされている魂のない身体たち
In a forest of dying trees
枯れゆく木々の森の中で
The last great disciple of the human race
人類最後の偉大なる弟子
Slipping through the cracks of time and space
時空の隙間をすり抜けて
Your sadness sweeter than a rose
おまえの悲しみは薔薇より甘い
I’ll watch you decompose
おまえが朽ちていくのを見届けてやる
Paid the final cost
最終費用を支払った
I am the butcher
俺は肉屋だ
Everything I see I kill
見るものすべてを殺す
You have no immediate future
おまえには近い将来がない
Swallow sorrow’s bitter pill
悲しみの苦い錠剤を飲み込む
I am the butcher
俺は肉屋だ
Everything I see I kill
見るものすべてを殺す
You have no immediate future
おまえには近い将来がない
Swallow sorrow’s bitter pill
悲しみの苦い錠剤を飲み込む
The future isn’t open, it’s bleak and fucking empty
未来は開かれていない、それは真っ暗でクソみたいに空っぽだ
Keep crying to your god, he’s the one who fucking sent me
おまえの神に泣きつけばいい、あいつが俺を送り込んだんだ
Unholy left hand, the prophet of doom
不浄なる左手、破滅の預言者
Save your tears, you’ll need them soon
涙をこらえろ、すぐに必要になるだろう
Cower undercover face the fire as a coward
隠れて震えながら臆病者として炎に向き合う
You will be the first, the most deliciously devoured
おまえが最初に、最も美味そうに貪り食われるだろう






