Metallica(メタリカ)の「Hardwired」は、ただの速いスラッシュ曲じゃない。短く、粗く、真っ直ぐで、言葉も“簡単”に見える。けれどその単純さは、むしろ本質をむき出しにするための刃だ。曲の核にあるのは「Hardwired to self-destruct」――自己破壊へ向かう配線が、最初から組み込まれているという感覚である。ここで言う“hardwired”は、努力や気合で簡単に書き換えられる性格の話ではない。脳や機械の配線のように、初期設定として固定されてしまった衝動、習性、反射。だからこそ歌詞は容赦がない。「We’re so fucked / Shit outta luck(もう詰んでる/運も尽きてる)」と吐き捨て、世界は“破滅の設計(doom design)”で動いているように聞こえる。
このアルバムのタイトル「Hardwired…To Self-Destruct」自体、ヘットフィールドが“依存に苦しむ友人”の言葉から受け取ったフレーズだと語られている。個人が自分を壊してしまう力学(依存・衝動・破滅衝動)を、彼は「人間一般」へ、さらに「人類が地球上でやっていること」へと拡張して捉えている。つまり「Hardwired」は、個人の破滅衝動の歌であると同時に、文明の破滅衝動の歌でもある。ヘットフィールドは「Hardwired」の歌詞について、“難解な詩ではないが、人間は本当に正しいことをしているのか?”という問題意識を語っている。人類史の中で自分たちは一瞬の“点”に過ぎないのに、その短い時間で地球規模の傷を増やしてはいないか――そういう視線が、この曲の背後にある。 Loudwire+2BLABBERMOUTH.NET+2




では、ここで言う「自己破壊するように組み込まれたもの」は、何から来ているのか。ひとつは快楽・効率・勝利への短絡だ。すぐ手に入る刺激、すぐ増える利益、すぐ得られる優越。もうひとつは、恐怖と分断だ。敵を設定すれば団結できる。脅威を煽れば従わせやすい。正しさを掲げれば暴力が正当化できる。歌詞の「In the name of…(〜の名のもとに)」という反復は、その構造をえぐり出す。“絶望の名のもとに”“惨めな苦痛の名のもとに”“すべての創造(この世界のすべて)の名のもとに”――言葉は崇高に見えるのに、結果として残るのは狂気(Gone insane)だ。正義や使命を名乗った瞬間に、誰かの苦痛が「必要な犠牲」に変換されていく。ここには、戦争や政治だけじゃなく、企業の論理、組織の論理、SNSの集団心理まで入ってくる。
そして「Hardwired」が恐ろしいのは、これが“比喩だけ”では済まないことだ。現実の世界では、すでに「終末へ向かっているのでは?」と感じさせる材料がいくつも積み上がっている。気候については、IPCCが「人間活動が温暖化を引き起こしてきたことは疑う余地がない」と明言し、温室効果ガス排出が気温上昇や海面上昇などの変化と結び付いていることを整理している。 ipcc.ch+1
生物多様性については、IPBES(生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム)が、多くの種が人間活動の影響で絶滅リスクを高めていると警告し、「約100万種が絶滅の危機にある」といった推計も示している。 files.ipbes.net+1
汚染の象徴としてのプラスチックも、UNEPが「水域へ流出するプラスチック廃棄物は毎年大量に発生している」とし、ビジネス・アズ・ユージュアルのままでは悪化すると見通している。 UNEP – UN Environment Programme+1
さらに安全保障面では、SIPRIが「新たな核軍拡競争の危険性」を指摘し、軍備管理の弱体化とリスク増大を警告している。 SIPRI+1
こういう現実を前にすると、「人類は破滅の道を本当にたどっている途中なのか?」という問いは、単なる煽りではなくなる。もちろん未来は確定していない。破滅が“決定事項”なら、ここまで警告が繰り返されること自体が無意味になってしまう。けれど「Hardwired」が鳴らしているのは、“まだ戻れるかもしれない”という希望ではなく、戻れなくなる速度で進んでいるという焦燥だ。「On the way to paranoia(パラノイアへ向かう)」「On the way to great destroyer(巨大な破壊へ向かう)」というラインは、外側の社会が壊れていく話であると同時に、内側の精神が壊れていく話でもある。文明と個人の自己破壊が、同じ回路で接続されている。




ここに聖書(旧約・黙示録的な世界観)との接点を読むこともできる。ただしそれは「バンドが聖書を引用した」と断定する話ではなく、あくまで解釈としての“重なり”だ。聖書には、終末の兆候、裁き、疫病、戦争、飢饉、偽りの預言、傲慢な権力、そして「人間が自分の行いによって招く破局」というモチーフが何度も現れる。そこでは世界の崩壊は“外から落ちてくる罰”であると同時に、“内側から腐った結果”として描かれることが多い。
「Hardwired」の“破滅の設計(doom design)”は、まさにこの「内側からの崩壊」に響く。人間の欲望、恐怖、怒り、分断、依存――それらが社会システムと結びついて巨大化し、最後には自分たちが住む世界そのものを燃やす。「Once upon a planet burning(むかしむかし、燃える惑星があった)」というブラックな語り口は、童話の皮をかぶった黙示録だ。希望が薄れていくのを感じるか?理解しているか?終わっていくのを感じるか?――この問いかけは、神に向けた祈りというより、“見て見ぬふりをしている自分たち”への詰問に近い。
そして何より、この破滅の回路に巻き込まれていくのは、人間だけじゃない。
空気、海、土、森。そこに住む生物。食料を生む昆虫や微生物。水と資源。都市とインフラ。働く人の心身。家族の時間。国の思想。正しさの名の下で切り捨てられる弱者。合理化の名の下で使い捨てられる命。争いの名の下で増殖する憎しみ。便利さの名の下で拡大する浪費。
「Hardwired」はそれらを丁寧に説明しない。説明しない代わりに、結論だけを叩きつける――俺たちは自己破壊するようにできている。この曲の冷酷さは、同時に“気づき”の火種でもある。もし配線が固定されているなら、必要なのは「反省」だけじゃない。「構造の変更」だ。個人の衝動だけでなく、社会の衝動――便利さ・利益・分断・恐怖で動く仕組み――そのものを、どう書き換えるか。
この歌のスピードは、終末の疾走であると同時に、最後の警報でもある。止まる気がないまま加速していく世界を前にして、それでも“感じないふり”を続けるのか。それとも、この狂気を「狂気だ」と認めるところから始めるのか。「Hardwired」は、その選択を突きつけてくる。
![]() 2016 “Hardwired…To Self-Destruct“ Disc One 1. Hardwired 2. Atlas, Rise! 3. Now That We’re Dead 4. Moth Into Flame 5. Am I Savage? 6. Halo On Fire Disc Two Disc Three (Deluxe Edition Only) |







