Metallica(メタリカ)の「Atlas, Rise!」は、ただギリシア神話の固有名詞を借りた“ファンタジー”じゃない。ここで呼び出されるアトラスは、「世界の重みを背負わされる存在」の象徴であり、現代の現実にもそのまま刺さってくる比喩だ。
そもそもアトラス(Atlas)はギリシア神話に登場するティターン神族の一柱で、ゼウス率いるオリュンポス神々との戦い(ティタノマキア)で敗れたのち、罰として天空(天)を支え続ける運命を科された存在として語られる。重要なのは、アトラスが背負っているのは“地球”ではなく、**天(天空・天球)**だという点だ。ヘーシオドス(『神統記』)の系譜でも、アトラスは戦いに加わった罰として「天を高く支える」役目を負わされた、と整理されている。 Encyclopedia Britannica+1
しかもその舞台は、神話の地理感覚でいえば「既知の世界の西の果て」。ヘスペリデス(夕暮れのニンフ)や“黄金の林檎”の伝承とも地続きで、アトラスは“世界の果て”で永遠の重荷を押し付けられている存在として立ち上がる。古典の伝承では、英雄ヘラクレスが黄金の林檎を求めた際にアトラスと関わり、ヘラクレスが一時的に“天を支える役目”を肩代わりする──というエピソードすら語られる。つまりアトラスは「力持ち」ではなく、終わりのない責務の囚人であり、そこに“救いの交換条件”が持ち込まれる残酷さまで含めて神話になっている。 Theoi+1


さらにやや後代の物語では、アトラスはペルセウスによって山へと変えられた、という伝承も広まった。そこで“Atlas”という名は、北西アフリカのアトラス山脈へと結び付けられ、神話は地理(現実の地形)に沈殿していく。 Encyclopedia Britannica+1
この「神話が現実世界の言葉に残る」現象は、地名だけじゃない。私たちが当たり前に使う **地図帳の“atlas(アトラス)”**という言葉は、16世紀の地理学者・地図製作者メルカトルが1595年に地図集のタイトルに「Atlas」を採用したことに由来すると説明される。けれど、その結果として「アトラス=地球を背負う男」というイメージが強化され、芸術表現では“地球(地球儀)を担ぐアトラス”が広まってしまった――本来は“天球(天空)を支える”のに、だ。 Digimap For Schools+1
現実世界での“Atlas”は、さらに面白い形で生きている。人体解剖学では、首の最上部にある第一頸椎(C1)を **atlas(環椎)**と呼ぶ。これは「頭(頭蓋)を支える骨」が、神話のアトラスのように“上にある重みを支える”ことから名づけられた、と説明されている。つまりアトラスは、神話の中だけでなく、地図帳にも、身体の構造にも、“支える者”として刻まれている。 Biology LibreTexts+1
――ここまで来ると、「Atlas, Rise!」が何をやろうとしている曲なのかが見えてくる。アトラスは“強いから背負う”のではない。多くの場合、背負わされるのは「役目」や「正しさ」や「世間の期待」や「責任」だ。誰かが掲げた“完璧”や“正義”の裏で、実務・罪・後始末・感情の負債がひとりに集中していく。曲の中で繰り返されるのは、そうした苦味(bitterness)と重荷(burden)、そして“恨みが背中を折る”という感覚だ。
この曲のアトラスは、神話のティターンであると同時に、現代社会で「背負い役」を引き受けさせられる私たち自身でもある。だからこそタイトルの叫び「Atlas, Rise!」は、単なる神話の引用ではなく、押し潰される側に向けた“反転”の号令として響く――「起き上がれ」「背負わされるだけで終わるな」と。
Atlas, Rise!
Bitterness and burden
苦しみと重荷
Curses rest on thee
呪いがおまえに降りかかる
Solitaire and sorrow
孤独と悲しみ
All Eternity
永遠に
Save the Earth and claim perfection
地球を救い、完璧を自称しろ
Deem the mass and blame rejection
大衆を値踏みし、拒絶されたことを責めろ
Hold the pose, reign perception
姿勢を保て、知覚を支配しろ
Grudges break your back
恨みは背骨を折る
All you bear
すべてを耐えろ
All you carry
すべて背負え
All you bear
すべてを耐えろ
Place it right on, right on me
それをそのまま、俺にのせろ
Die as you suffer in vain
無駄に苦しんで死ね
Own all the grief and the pain
すべての悲しみと痛みを抱え込む
Die as you hold up the skies
天を支えながら死ね
Atlas, Rise!
アトラスよ、立ち上がれ!
How does it feel on your own?
ひとりでやるのはどんな気分だ?
Bound by the world all alone
世界に縛られ、ただひとり
Crushed under heavy skies
重く垂れ込めた空の下で押し潰される
Atlas, Rise!
アトラスよ、立ち上がれ!
Crucify and witness
磔にして見届けろ
Circling the sun
太陽を周回する
Bastardize and ruin
歪めて台無しにする
What have you become?
おまえは一体何になったんだ?
Blame the world, and blame your maker
世界を責めよ、そして創造主を責めよ
Wish ‘em to the undertaker
葬式屋に任せておけ
Crown yourself the other savior
自らをもう一人の救世主と称えよ
So you carry on
だから続けろ
All you bear
すべてを耐えろ
All you carry
すべて背負え
All you bear
すべてを耐えろ
Place it right on, right on me
それをそのまま、俺にのせろ
Die as you suffer in vain
無駄に苦しんで死ね
Own all the grief and the pain
すべての悲しみと痛みを抱え込む
Die as you hold up the skies
天を支えながら死ね
Atlas, Rise!
アトラスよ、立ち上がれ!
How does it feel on your own?
一人でやるのはどんな気分だ?
Bound by the world all alone
世界に縛られ、ただひとり
Crushed under heavy skies
重く垂れ込めた空の下で押し潰される
Crushed under heavy skies
重く垂れ込めた空の下で押し潰される
Atlas, Rise!
アトラスよ、立ち上がれ!
Masquerade as maker
作り手になりすます
Heavy is the crown
王冠は重い
Beaten down and broken
打ちのめされ、打ち砕かれた
Drama wears you down
茶番が、おまえを摩耗させる
Overload, the martyr stumbles
過負荷、殉教者はよろめく
Hit the ground and heaven crumbles
地に落ちれば天は崩れ落ちる
All alone, the fear shall humble
独りになれば、恐怖がおまえを打ちのめす
Swallow all your pride
すべての誇りを飲み込め
All you bear
すべてを耐えろ
All you carry
すべてを背負え
All you bear
すべてを耐えろ
Place it right on, right on me
それをそのまま、俺の上に置け
Die as you suffer in vain
無駄に苦しんで死ね
Own all the grief and the pain
すべての悲しみと痛みを抱え込む
Die as you hold up the skies
天を支えながら死ね
Atlas, Rise!
アトラスよ、立ち上がれ!
How does it feel on your own?
一人でいるのはどんな気分ですか?
Bound by the world all alone
世界に縛られ、ただひとり
Crushed under heavy skies
重く垂れ込めた空の下で押し潰される
Crushed under heavy skies
重く垂れ込めた空の下で押し潰される
Atlas, Rise!
アトラスよ、立ち上がれ!