
Irate (NYC) — ニューヨーク出身ハードコア・メタルバンド
結成とメンバー構成の変遷
Irateは1995年に米国ニューヨーク市ブロンクス区で結成されたハードコア・メタルバンドです。結成メンバーはギターのNick Ruiz、ドラムのU.V.、ギターのNando、ボーカルのPhil “Vibez” Vasquez、ベースのJaysonの5人でした。彼らはヘヴィ・ミュージックへの愛情と都市での若者時代に感じた幻滅(アーバンライフへの不満)によって結束し、バンド名をIrate(「怒り狂う」の意)と名乗りました。その名の通り、ニューヨークの無関心な社会に対する怒りをサウンドと歌詞で表現し、耳を傾けさせるために叫ぶような激烈な音楽性を確立します。結成後まもなくニューヨーク市で最もブルータルなメタル・バンドの一つとして頭角を現しました。
バンドはおよそ10年間活動し、1996年から2006年まで“DIY(自主制作)”を貫いたとされています。メンバーは基本的に不変でしたが、ベースだけは交代がありました。オリジナル・ベーシストのJaysonは2000年前後に脱退し、後任にCurtis Reisが加入しています。最終期のラインナップはNick (ギター)、U.V. (ドラム)、Nando (ギター)、Phil (ボーカル)、Curtis (ベース)の5人体制となりました。
作品と活動歴
バンドは結成後すぐに曲作りとライブ活動を開始し、1996年にデモテープを制作しました。その後、1998年にEP『Burden of a Crumbling Society』を自主レーベル(Even If It Smells Productions)からリリースし、これが彼らにとって初の正式音源となりました。続いて2001年には初のフルアルバム『11:34』を自主制作で発表します。このアルバムにはEP収録曲の再録に加えて新曲が収められ、彼らの持つ本来のポテンシャルが存分に発揮された内容となりました。なお、アルバム名の「11:34」は数字を逆さにすると“HELL”(地獄)を意味しており、バンドの世界観を象徴するタイトルとなっています。
『11:34』リリース後も制作とライブを精力的に続け、2003年にはプロモーション用デモ音源を発表しました。このデモには後に代表曲となる「Vendetta」を含む数曲が収録され、翌作への布石となりました。「Vendetta」は当時出現した同名のニューメタルバンド(I.R.A.T.E.)への怒りを叩きつけた曲であり、自分たちが長年名乗ってきた“IRATE”の名を守るための宣戦布告でもありました。そして2005年、2作目のフルアルバム『New York Metal』をリリースします。このアルバムではサウンドがさらに発展し、ブルータルなブレイクダウンだけでなく高速のギターソロやクリーントーンのパートまで盛り込み、テクニカルかつ圧倒的にヘヴィな仕上がりとなりました。楽曲「NY Metal」の歌詞に「“We are New York metal, reinventing thrash on a whole new level… Bringing back the Bronx, making history”(俺たちこそニューヨーク・メタル、新次元のスラッシュを再発明する。ゲットーからブロンクスを甦らせ、歴史を刻む)」という一節があるように、地元ブロンクスの誇りとスラッシュメタルからの影響を前面に打ち出した作品でした。
ライブ活動において、Irateは初期から地元NYHCシーンで精力的にライブを行い、クイーンズ区のCastle Heightsで定期的に出演して熱心な支持層を獲得しました。その勢いに乗り、伝説的クラブCBGBをはじめ、Limelight、L’Amour、The Downtown、Albany’s Valentinesなどニューヨーク周辺の主要ライブハウスに次々と出演。デスメタル・スラッシュ系のDeicideやOverkill、Napalm Death、Death Angel、Nuclear Assaultから、メタルコア/ハードコア系のHatebreed、Candiriaといった国内外の著名バンドのオープニングアクトも務め、ジャンルを超えて実力を示しました。
海外での活動も活発で、2001年末には初の海外ツアーとして来日公演を行い、東京・大阪・名古屋でヘッドライナー公演を成功させました。翌2002年にはヨーロッパ5か国ツアー(ベルギー、オランダ、イギリス、フランス、ドイツ)を敢行し、現地のファンから熱狂的な支持を受けます。さらに2004年春にはプエルトリコ公演にも参加し、スウォーン・エネミーのツアーサポートとしてビリー・クラブ・サンドウィッチやEverybody Gets Hurtらと共演しました。
こうした精力的な活動を続けましたが、バンドは2006年に解散します。結成から約10年にわたるDIYスピリット溢れる活動期間を振り返り、メンバー自身もラストツアーのTシャツに「The Decade of DIY (1996–2006)」と記すなど、自主独立を貫いた10年間であったことを強調しました。解散の要因について公に詳しく語られることは多くありませんでしたが、後述するバンド名の法的トラブルやメンバーの私生活の変化など、様々な要因が重なったとされています。
他バンドとの関係・影響
Irateはニューヨークのハードコア/メタルコア・シーンにおいて、同世代のバンドと深い繋がりを持っていました。特にSworn Enemy(スウォーン・エネミー)、Billy Club Sandwich(ビリー・クラブ・サンドウィッチ)、Everybody Gets Hurt、Shattered Realmなどは音楽性も近く友人関係にあり、互いにライブで競演する機会も多かったとされています。これらのバンドはいずれもブレイクダウン主体の重量級ハードコアにスラッシュメタル的要素を融合したサウンドを持ち、当時のNYHCヘビー路線を牽引した仲間でした。Irateの曲作りにもメガデスやスレイヤー、セパルトゥラといったスラッシュ/デスメタルからの影響が見られ、そうした点は同時期の他バンドとも共通しています。
具体的な共演歴としては、前述のように2004年にSworn Enemyのツアーに帯同し、Billy Club SandwichやEverybody Gets Hurtとプエルトリコで共演しました。またニューヨーク周辺のショーやフェスでも、しばしば彼らは顔を合わせています。例えばヘヴィなNYHCシーンで頭角を現していたFull Blown Chaos(フル・ブローン・ケイオス)とも同じイベントに出演するなど、地元シーンを盛り上げる同志として活動しました。お互いのバンドは競い合いながらも刺激を与え合い、そのシーン全体の隆盛に寄与したといえるでしょう。
Irateが国際ツアーを行った際にも、他バンドとの連帯が見られました。日本公演や欧州ツアーでは現地のハードコア・バンドとも交流し、ニューヨーク以外のシーンにもIrateの存在感を示しています。こうした横の繋がりにより、Irateは地元NYHCのみならず世界のアンダーグラウンド・ハードコアコミュニティからも支持を集めました。
NYHCクルー文化とのつながり
ニューヨーク・ハードコア(NYHC)のシーンでは、音楽面だけでなくクルー(地元の仲間グループ)文化も重要な要素となっています。中でも有名なのがDMSクルー(Doc Martens Skinheadsの略)で、MadballのメンバーやSkarhead/Crown of ThornzのDanny Diablo(通称Lord Ezec)ら名だたるNYHCミュージシャンも所属する勢力です。Irateのメンバーも公式にこのクルーに属していたとの明言はありませんが、活動当時はDMSクルーをはじめとするNYHCクルーとの関係が深かったと見られます。実際、前述したようにIrateはDMSクルー色の強いバンド(Billy Club SandwichやEverybody Gets Hurt、Sworn Enemyなど)と数多く共演しており、クルー主催のイベントやパーティーに呼ばれることもあったようです。荒くれ者が集うNYHCシーンにおいて、クルーとの良好な関係はライブの安全や成功にも影響するため、Irateも自然とそのネットワークの中に組み込まれていきました。ボーカルのPhilをはじめメンバーはブロンクス出身ということもあり、クイーンズ発祥のDMSクルーだけでなく地元ブロンクスのハードコア仲間たち(例:「BXHC」などと呼ばれるコミュニティ)とも強い絆を持っていたと推測されます。こうしたクルー文化との繋がりは、IrateがNYHCシーンで支持を得る土壌を築く一因ともなりました。
バンド名「Irate」の由来とエピソード
バンド名Irateは英語で「怒り狂った」「激高した」という意味であり、その名の通りバンドの音楽性や歌詞のテーマを端的に表しています。前述のようにメンバーは都市で感じた怒りやフラストレーションを創作の原動力としており、**「耳を傾けさせるためには怒りの声を上げるしかない」**という姿勢が名前にも反映されています。ニューヨークという苛烈な環境で生き抜く若者の憤りを体現する言葉として、Irateというシンプルながら強烈な単語が選ばれたのでした。
このバンド名にまつわるエピソードとして特筆されるのが、同名バンドとの争いです。2000年代初頭、アメリカで“I.R.A.T.E.”と称するニューメタル系の別バンドが現れ、Irate (NYC)とバンド名の権利を巡って対立する事態が起きました。ニューヨークのIrateは自分たちの方が先に活動していたにも関わらず名前を主張されたことで激怒し、その怒りを曲「Vendetta」にぶつけています(曲中で「家名を守るため戦う」といった趣旨の歌詞が綴られています)。法的には相手側がカリフォルニア州で権利主張を行ったため争うのは困難となり、ニューヨークのIrate側はバンド名の後ろに「NYC」を付けて併記することでやむを得ず合意しました。以降、流通上は**“Irate (NYC)”とクレジットされることが多くなり、公式な場でもバンド自身がそう名乗るケースが見られました。この名称問題や諸事情はバンドの士気にも影響を与え、結果的にこれが解散の一因になった**ともいわれています。
しかしながら、Irate (NYC)という名前は地下シーンで長く語り継がれる伝説となりました。その攻撃的なバンド名と音楽はNYHCファンの記憶に深く刻まれ、解散後もメンバーのPhil “Vibez”は新たなバンドThe Judas Syndromeで活動を続けるなど、Irateの遺伝子はシーンに受け継がれています。Irateという名前に込められた怒りと情熱は、ニューヨーク・ハードコアの歴史の一部として今なお熱く支持されているのです。
Gone
As I relive all the twisted, dark sides of a tainted memory.
穢れた記憶の、ねじれた暗い面を俺は何度も思い出す。
I realize that the facets I hide continue to haunt me.
隠してきた側面が、今も俺を苦しめ続けていることに気づいた。
I can’t forgive all the punishment that they dealt me blow by blow.
あいつらが俺に与えてきたすべての虐待、その一撃一撃を、俺は許すことができない。
I used to feel some sympathy for the ones who didn’t know
かつては、何も知らないヤツらに情けを感じてた
It’s GONE
それは消えた
Father sits blank his thoughts are of second son.
父は無表情で座り、次男のことを思っている。
Crying tears of shame.
情けなさで涙を流して泣いている。
Father, he went and led his own life astray, and you’re not to blame.
父さん、彼は自分で人生を踏み外したんだ、あなたのせいじゃない。
He got sucked up by the angel he lusted, he’ll never be the same.
彼は己の欲した天使の粉に媚びて、もう、元には戻れない。
He keeps on fighting, his demons decided: recessive mental fate I ain’t lying.
彼は戦い続けているが、内なる悪魔たちはもう決めていた:不可避な精神的運命、俺は嘘はついてない。
GONE
消えた
I’m so fucking stressed out, want to blow my brains out, guess the pressure’s getting to me
マジでストレスが限界で、頭をブチ抜きたいくらい、多分、プレッシャーに押し潰されそうなんだ
I just can’t shake this feeling of worthlessness as I stare at the ceiling, a useless mess.
天井を見つめながら、この無価値さの感情がどうしても拭えないで、俺は役立たずのクズだ。
No god or drug can save me from my distress.
神も薬も、この苦悩から俺を救うことはできない。
Only my friend my brother can rebuild what is left
残されたものを再び築けるのは、唯一、俺の友であり兄弟だけだ
GONE
消えた